免疫生物研究所
先日、内閣官房医療イノベーション推進室長であり、東京大学医科学研究所教授の中村祐輔さんが、室長を辞任し、来年4月から米シカゴ大学に移籍すると発表されました。
その理由が「国の制度や仕組みを変えようと頑張ったが、各省庁の調整機能さえ果たせず、無力を感じた。」と、日本でのバイオベンチャー育成・新薬の導出の難しさを、内閣の中で最も医療の推進をしていた室長が断言したのです。
私はこの現実に非常に落胆しました。
ドラッグラグだけでなく、日本のバイオ産業そのものが否定され、人材が日本を去って行く…。
日本の医療を良くして行こうとご尽力された方が、日本を見放すという決断をしなければならなかった苦悩は、とても大きな事だったと思います。
中村先生がそう判断せざるを得ない状況の日本。そして日本のバイオ企業に目を向けると、もうそれを見据えていたかのような事業展開を既にしている事に気が付くのです。
今回は、その中でも、中国市場に目を向け、大きく経営変化をした「免疫生物研究所」を取り上げたいと思います。
免疫生物研究所の2010年〜2011年
免疫生物研究所は、2010年から2011年にかけて、大きな経営判断を3つしています。
1つめは、ジーエヌアイグループの子会社である上海ジェノミクス社との提携
2つめは、トランスジェニックカイコ技術の取得(ネオシルク社を吸収合併)
3つめは、トランスジェニック社との提携
いずれも、日本の技術力を持って、海外への進出をするためには欠かせない大きな経営判断であることは間違いありません。
そしてこれが功を奏し、低迷していた株価は、一時約10倍にまで上がったのです。
1. ジーエヌアイグループの子会社である上海ジェノミクス社との提携
ジーエヌアイグループとの提携に関しては、「ジーエヌアイグループ (GNI) [2]」にまとめていますが、簡単に振り返っておくと、2010年6月21日にジーエヌアイグループの中国にある子会社「上海ジェノミックス」と、提携を結んだのです。
下記は、その際のIR(抜粋)です。
今回の契約は、当社が開発作製した複数の抗体について、中国で急成長を続ける臨床検査市場に参入するため、それら抗体に関する製造、開発および販売 するライセンスをSG社に譲渡するものです。
本締結によって、SG社は今後中国市場において、がんを中心とした 体外診断用医薬品の開発、製造および販売が可能となります。
当社はその売上高に対して 一定率のロイヤリティーを一定期間受領することになります。契約締結にかかる契約一時金の受領はありません。
よく読んでみると、免疫生物研究所は、臨床検査市場への参入をするために、喉から手が出るほど欲しかったであろう契約時の一時金さえ貰わずに、上海ジェノミクス社に抗体に関する製造、開発および販売するライセンスをSG社に譲渡したのです。
つまりは、2010年6月以前から、日本で新薬を開発したとしても、国内での承認が難しく、医療を国策としている中国へ進出する必要があるという経営判断があり、この提携に至ったのでしょう。
その状況を踏まえ、ここ最近、新製品が立て続けに発売されているのも、中国市場に打って出るための品揃えを急いでいるように思えます。
2011年11月7日の [PDF] 関節リウマチ治療用生物学的製剤の有効性判定測定キットの製造販売
2011年11月10日の [PDF] 新しいアルツハイマー病研究用、「APP770測定キット」の販売開始
2011年12月1日の [PDF] 新規膵臓がんマーカー「Prolyl 4-Hydroxylated Human α-Fibrinogen 測定キット」の製品化
2011年12月19日の [PDF] メタボリックシンドロームの診断薬「ヒト血中可溶性(プロ)レニン受容体測定キット」の発売
このように「アルツハイマー」「ガン」「メタボリックシンドローム」の早期発見という中国市場の国策に沿った商品であり、ジーエヌアイグループから中国国内へ導出をされる可能性が高いと思われます。
「2011.12.21 追記]
中国での特許の取得に関するIRが出されました。
[PDF] 「カイコでの組換えタンパク質製造技術」に関する特許出願の中国における特許査定のお知らせ
これによって、中国市場でのGMカイコのタンパク質製造の特許が取得でき、商品の販売・技術の提供などが、特許として法的に守られる事になります。
中国進出へ、確実に歩みを進めている進捗のIRとも言えるでしょう。
2. トランスジェニックカイコ技術の取得(ネオシルク社を吸収合併)
先日(2011年12月16日)に、テレビ東京系列で放送されている「ワールドビジネスサテライト(WBS)」の番組内で、トランスジェニックカイコが取り上げられました。
トランスジェニックカイコとは、カイコの遺伝子を組み換えることで、バイオ医薬品の製造に用いられる抗体(タンパク質)を繭の中に作れるように品種改良されているのです。
この技術を用いた成果として、2011年5月24日に、[PDF] ヒトフィブリノゲンの生産成功というIRを出しました。
当社及び日本製粉株式会社は、遺伝子組換えカイコを用いて、血液凝固活性を有する組換えヒトフィブリノゲンを繭に効率的に生産する技術研究開発に成功いたしました。
ヒトフィブリノゲンは、血液凝固因子の一つである糖タンパク質です。ヒトフィブリノゲン及びそれを主成分とする製剤は、現在、止血用の医薬品等へ利用されております。
しかしながら、その製造原料はヒトの血液が用いられているため、C 型肝炎ウイルス等の混入リスクが全く無いとはいえません。
そのため、動物培養細胞や酵母等を用いて安全な組換えヒトフィブリノゲンの生産が試みられてまいりましたが、効率的な生産技術はいまだ確立されていないのが現状です。
これまでに、当社及び日本製粉株式会社は、遺伝子組換えカイコの繭に可溶性のタンパク質を効率的に分泌させる生産系を開発し、ヒト抗体やヒト成長ホルモン等の生産を成功させ てまいりました。
今回の技術研究開発では、ヒトフィブリノゲンのような複雑な高次構造を有する高分子の 組換えタンパク質の効率的生産を目指しました。
その結果、高次構造を有するヒトフィブリノゲン分子として、世界で初めて繭に分泌させることに成功し、また繭に含まれる組換えヒトフィブリノゲンを簡便に抽出・精製することにも成功いたしました。
さらに、抽出した組換えヒトフィブリノゲンは、明らかに凝固する性質を有することも確認しております。
今後、当社及び日本製粉株式会社は、さらに本組換えヒトフィブリノゲンの詳細な物性解 析や生産量向上を目指した技術開発を継続し、カイコで生産したヒトフィブリノゲンを医薬部外品、医薬品、及びその他用途への実用化を目指してまいります。
この技術が確立され、医薬部外品や医薬品に利用されれば、C 型肝炎ウイルス等のリスクがなく、しかも増産しやすいカイコを用いることで、非常に高額なバイオ医薬品が「安全」で「安価」な存在になる日も、そう遠くはないのかも知れません。
3. トランスジェニック社との提携
免疫生物研究所は、2010年9月10日に [PDF] 「米国タコニック社の遺伝子改変マウス及び遺伝子改変ラット製品の日本での独占販売代理店契約終了に関するお知らせ」というIRを出しています。
おそらくこれを機に、同じく遺伝子改変マウス事業を行っていたトランスジェニックとの提携が実現したのだと思います。
そして、トランスジェニックは抗体事業やガン診断試薬などの特許を豊富に保有しているため、お互いのシナジー効果が見込めると判断をしたのでしょう。
その成果が、2011年12月1日の 新規膵臓がんマーカー「Prolyl 4-Hydroxylated Human α-Fibrinogen 測定キット」の製品化となるわけです。
日本のバイオベンチャーの生きる道
悲しいかな、中村祐輔先生が日本を見放すのと同様に、日本のバイオベンチャーは、国内での新薬承認よりも、医療を国策としている中国や、確実にビジネスが出来る米国へのシフトが進むと思われます。
免疫生物研究所はジーエヌアイグループやトランスジェニックと提携をして、中国で売れる物を作り販売をする組織を作りました。そして作り出された商品は質が良く、人類の医薬に大きく貢献をしてくれる可能性を秘めています。
おそらくこれから免疫生物研究所と提携をしたい企業は増え、結果的に日本のバイオベンチャーの連携が強まり、「再生医療」「タンパク質の増産」「診断マーカー」などの開発スピードを向上させ、中国市場へ打って出る、そんなシナリオが見えてきます。
中村先生やバイオベンチャー企業のように、私達日本人も日本からシフトする…考えたくありませんが、もしかすると、そんな時がくるのかもしれません。
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2011/12/20 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:注目の企業

